自分の椅子に座ると深愛はふぅ、とため息をついた。
「母さんが怪獣の遺伝子を人間の受精卵に組み込む研究をしていたっていうのはホント。」
「………ホントなんだ。」
「うん。でも理由がないわけじゃないよ。
ギリシャ神話に出てくる記憶の女神のムネモシュネの頭文字をとってつけられた計画があったんだ。
それがM計画。」
「………M計画?」
「そう。日本に何度も上陸しているゴジラを倒すためだけに、
怪獣の遺伝子を人間の受精卵に組み込む計画。」
「………ゴジラ………。聞いたことがあるかも。
おじいちゃんおばあちゃん世代の時に、人間が行った核実験から生まれた悲劇の存在だって。
でも、それと同時にあらゆる兵器を寄せ付けぬ脅威の破壊神だって。」
「そ。元々は大戸島の海の生物の名前から由来が来ているらしいけど。
とりあえず存在自体が天災でいかなる存在であろうと、
圧倒的破壊力で蹂躙するっていうのがゴジラの特徴。」
「……人災によって生まれた天災で、異常気象みたいなもの?」
「うん、そうだね。
………まあ、ともかく。ゴジラを押し返すのではなく、打倒を考えていた当時の防衛軍も、
この計画に賛成。
ただ、論理的な問題やら何やらで秘密裏に研究チームを特別編成して、
極秘に計画を実行、実践していったんだ。
……だけど16年前の研究事故で資料もろとも施設は全焼、
犠牲者は出なかったけどたくさんの負傷者を出したことから、
計画は凍結。研究チームも解散となった。ってわけ。
で、私は研究唯一の成功例として防衛軍に所属することになりゴジラ討伐のために
任務をこなしているわけ。」
「これが世間に知られたら防衛軍要らずになっちゃうね。」
「………驚いた?」
「うん、かなり驚いているよ。………深愛のお母さんがしたことはいけないことだけど、
それだけゴジラが恐怖の対象になっていたんだね。」
「母さんも、両親や親族を立て続けにゴジラの二次災害で亡くしているからね。
ゴジラに対して憎しみを持っていたんだ。」
「………でも、深愛を人間として育てることにしたの?」
「………16年前、ゴジラに襲われそうになった時、私がバリアを張って皆を守ったらしいんだ。
それが心境の変化になったのかどうかわからないけど、私を被検体としてでなく
人間として育てることにした。
でも、やっぱり色々と無理があったんだよ。
怪獣と人間の体を持っているからね、消費カロリーが半端ないんだ。
だから、怪獣に変身した後は薬を飲まないとお腹がものすごく減っちゃうし。」
「………あ、バラゴンの時に言ってた薬ってそのことだったんだ。」
「そういうこと。」
「…………深愛を前にこう言いたくはないけど、私普通の人間でよかったかも。
食費だけでエンゼル係数が馬鹿みたいになっちゃうもん。」
「気を付けないと食べ放題の店でも出禁になりかねないからね。」
「………食欲半端なくない?」
「できることなら怪獣に変身せずに一生を終えたいんだけど、人間との寿命に差異があるらしくて………。」
「何もメリットだけがあるわけじゃないんだ。デメリットもあるんだね。」
「うん。」
教室をガサゴソとあら探ししていた涼子はスタンプを見つけるとにんまりと笑った。
「でも聞けて良かった。怪獣に変身できる力を持っているから、深愛は一佐になったんだね。」
「………まあ、望まない結果にはなっているけどね。」
「じゃあ、このことは私と深愛だけの秘密だね。
公にしちゃったら、深愛は生きづらいもん。」
「………………ありがとう、涼子。」
続く。