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ACT17-(3)

「…………綾音ちゃんは先天性心疾患を持っているんです。
治療をすれば治るんですけど、なかなか思うように効果が出なくて。
それで、家に帰りたいと駄々をこねて。」

「そうだったんですか。」

「でも新しい薬とかも出ているんでしょう?」
「ええ。手術も検討しているんですけど、何分まだ幼いですから……………。」

「怖いって言う気持ちが出ているんですね。」

「…………別に余命を告知されているわけではないので、根気よく治療して欲しいんですけど…………。」

芳樹と看護師が話をしているのをよそに満月は綾音と話をしていた。


「そっか。綾音ちゃんにはお兄さんがいるのね。」
「うん。私の病気を治すために医者になるんだって言っているんだよ。」

「いいお兄さんじゃない。…………シスコンなんだね。」
「シスコン?確かに言われてみればそうかも。
でもそれじゃあ私だってブラコンになっちゃうよ。」
「あ、それもそうかもね。
私も5人のお兄様がいるから。」
「満月お姉ちゃん、お兄ちゃんが5人もいるの?」

「そうだよ。1番上が12歳も離れているから。」


「凄いなぁー………………でも芳樹お兄ちゃんと結婚するんでしょ?
芳樹お兄ちゃんのこと、ロリコンだとか言われない?」

「あはは、小さい頃はしょっちゅう言われていたよ。
歳に似合う女性を見つけろだの、何だの言われてね。
でも、お兄様達も芳樹さんも私のこと心配してくれているからね。」

「そうなの?」

「うん。私、虚弱体質だから。小さい頃は入退院とか繰り返していたんだよ。
今はめっきり減ったけど、季節の変わり目でも風邪を引いちゃったりとかして。」

「……………そうなんだ。病弱だったんだね、満月お姉ちゃん。」
「うん。……………ね、綾音ちゃんはどうして家に帰りたいの?」

「…………もうすぐおばあちゃんの誕生日なの。
でも私、ずっと入院しているからなかなか退院許可がおりなくて……………。」

「…………おばあ様、余命僅かだとか言われているの?」
「全然、そんなことないよ!大きな病気もしたことないし!」

「じゃあ、何でそんなに焦っているの?私から見たら焦っているようにしか見えないんだけど。」


「それは…………………。」

「何か言えないことでもあるのかな?」

満月の言葉に綾音はため息をついた。


「…………こんなこと、言っても信じられないかもしれないけれど。
おじいちゃんがね、夢の中に出てくるんだ。」


「…………おじい様が?」
「うん。戦争に行って死んだおじいちゃんが。……………おばあちゃんの顔がはっきりと出てくるから、
多分、おばあちゃんのことを心配しているんだと思うの。
ずっと、おばあちゃんは元気か?とか息災か?とか。
でも私、入院しているからおばあちゃんの様子わからなくて……………。」

「…………そっか。死んだおじい様がおばあ様の安否確認をしたくて綾音ちゃんに
コンタクトを取っているのね。」

「…………うん。でもおじいちゃん、最近苦しそう。」

「………苦しそう?」

「………何だかよくわからないものに体を拘束されているのかな……………。
黒い植物みたいなのに、浸食されている感じがするの。」



続く。

ACT17-(2)

2週間ほどばかり、入院することになった芳樹と満月はリハビリを兼ねて
院内を歩くことにした。

「…………あ、綿貫さんに姫宮さんよ。」
「トラックが突っ込んできたのに、2週間の怪我で済んで良かったわね。」
「2人の愛に勝るものはないって感じね。」

看護師にちやほやされながら、2人は廊下を歩く。

小児科病棟の前まで行くと、1人の少女が満月にぶつかった。

「わっ。」
「きゃっ!」

「満月ちゃん、大丈夫?」

「私は大丈夫ですけど、この子が………。」

「綾音ちゃん、また逃げようとしたでしょ!ダメじゃない!」

「逃げようとしたんじゃないもん、お家に帰りたいだけだもん!」

「だから、ちゃんと治療をしないとお家に帰れないって先生も言っていたでしょ?」

「嘘つき!半年前からそればっかり言っているけど全然治らないじゃん!」

「綾音ちゃん!」



「…………言いたいことはわからんでもないけど、まずは満月ちゃんに謝ろうか。ぶつかったのはそっちなんだし。」


にこにこと笑いながらも、綾音という少女の頭に手を振れた芳樹の目は笑っていなかった。



「………あ、ご、ごめんなさい……………。」






続く。

ACT17-(1)

その日は雨が降る日だった。

自動車がちょうど車検の時期だったこともあり、
芳樹と満月は徒歩で商店街まで移動し、買い物を済ませようとしていた時であった。

店にトラックが突っ込んできた、ということが起きるまでは。




「…………まったく、物吉から知らせを聞いた時は冷や汗をかいたぞ。」
「………すまん。まさかトラックが突っ込んでくるとは思ってもいなくて。」
「……………うぅ、よりにもよって怪我をするなんて…………。」
「2人揃って怪我をしたって聞いた時は心臓が止まるかと思ったよ!」


幸人の言葉に芳樹はあはは、と苦笑いをする。

「安心しろ、トラックの運転手には慰謝料と賠償金をたっぷり請求するからな。」
「………あの、ほどほどにしてくださいね。お兄様。」

桜庭総合病院の個室病室にて、芳樹と満月は仲良くベッドの上に寝ていた。
トラックが店に突っ込み、芳樹は満月を庇ったのだが、満月も多少の怪我を負ってしまい
2人揃って全治2週間と診断された。

「でもまぁ、良かったわ。2人の怪我がたいしたことなくて。」

見舞いに来たジャンヌはホッとした様子で満月の頭を撫でた。


「お仕事も頑張っていたのだから、神様から貰ったお休みだと思ってゆっくり養生しなさいな。」
「…………満月ちゃん、テスト期間だったのに残念だね。」
「あら、免除されるからいいじゃない。勉強からいったん離れなさいな。」
「テスト免除は嬉しいですけど…………。」
「ま、綿貫と姫宮の仕事もないし、ゆっくり休むんだな。」

綾人の言葉に2人ははーい、と頷いた。




続く。

ACT1-(2)

「………それではここが姫宮満月様のマイルームとなります。
どうぞご自由にお使いください。」
「ありがとうございます。」

SE.RA.PHのAIに案内されたマイルームに入った満月は自身が召喚したサーヴァント、
セイバーに椅子を勧めた。

「私は平気ですが。」
「いやいやいや。座ろうよ。対等な立場にいたいから。
そりゃ、主従関係は大事だけど。」
「………そうですか。わかりました。」

満月の言葉に納得したセイバーは椅子に座った。

「………というか、あの有名なアーサー王を引き当てるなんて…………。
後が怖いわぁ………………。でも意外だった。
アーサー王が年端もいかない少女だったなんて。」
「意外でしたか?」
「うん。でも嘘に嘘を重ねたうえに、国を守るために立ち上がったんだもんね。
アーサー………いや、アルトリアか。」
「確かに男性として振る舞ってはいましたが……………あまり驚いていませんね、満月。」
「私だって男性として振る舞う時がたまにあったから、ね。でも規模が違う。」
「…………そうだったのですか。」
「まあ、何にせよ。このSE.RA.PHの聖杯戦争はトーナメント式みたいだからさ。
決勝まで突き進めたらいいね。」
「はい、そうですね。」
「………うん、よろしくセイバー。」



続く。

ACT1-(1)

「………ここがムーンセル・オートマトンの中にある霊子虚構世界SE.RA.PHか…………。」

姫宮満月は地球と何ら変わりない空間であることに驚きつつも、SE.RA.PHの中を歩いていた。

中世ヨーロッパを意識したかのような空間に、満月は1人歩いている。

「お、あいつも聖杯戦争の参加者か?」
「まだ年若いな。10代後半か?」
「この世界にアクセスしたら勝利しないと、帰還することできないのにな。」

「(随分とまぁ好き勝手言ってくれちゃって………。この体は分身体なんだけどな………。)」

NPCの言葉を無視し、満月は召喚の儀を行う場所に移動した。


「………………ようこそ、SE.RA.PHへ。召喚の儀を行いますか?」

「お願いします。」

AIの言葉に従い、満月は召喚用の魔法陣の上に立った。

「素に銀と鉄、礎に石と契約の大公。
降り立つ風に壁を。四方の門は閉じ、
王冠より出で王国に至る三叉路は循環せよ。
閉じよ(満たせ)、閉じよ(満たせ)、閉じよ(満たせ)、閉じよ(満たせ)、閉じよ(満たせ)
繰り返すごとに5度、ただ満たされる時を破却する。

…………告げる。
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
聖杯の寄る辺に従い、この意この理に従うならば応えよ。
誓いを此処に 我は常世総ての善と成る者 我は常世総ての悪を敷く者
汝三大の言霊を纏う七天 抑止の輪より来たれ 天秤の守り手よ………!」




召喚用の呪文を口にし、満月はサーヴァントを呼び出した。


「…………問おう。貴女が私のマスターか?」



続く。
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