「…………だから、美月は私立に行かせるべきだって!何度も言っているじゃない!」
「金銭面のことも考えてくれよ。私立を受験させるのは別に高校からでもいいだろう?
何でヤケになっているんだ!?」
デジタルワールドから現実世界に帰ってきた美月の耳に両親の喧嘩が入ってきた。
「君の考えには美月も反対している、だから不登校になったんじゃないか!」
「私のせいだって言うの!?」
「……………うーん………まずいなぁ、またいつもの喧嘩かぁ………。
ムンモン、大丈夫?」
「平気だよ。でも大きい声出しているんだね。」
「うん、いつもこんな感じ。
…………ここにいてもあれだし、何処か出かけようか?」
「いいの?」
「いいのいいの、引きこもりにもそろそろ飽きてきたところだし、
ちょっと出かけちゃおうか。」
そう言うと美月は身支度を済ませた。
お気に入りのトートバックを持つと、その中を開けた。
「ムンモン、悪いけどこの中に入ってくれる?」
「うん!」
「急に飛び出したりしないでね?」
「大丈夫だよ〜。」
財布と最低限の必需品をトートバックに入れて、美月は部屋を出た。
トットッとと階段を降りると、両親は向かい合わせになって座っていた。
「……美月、どうしたんだその格好は。」
「悪いけど、今からウィンドウショッピングをしてくるわ。
いい加減、私のことで喧嘩するのも大概にしてよね。」
「待ちなさい、まさか家出じゃないでしょうね!?」
「家出じゃないよ、18時までには帰ってきますって!」
母親の制止を押し切り、美月は玄関を飛び出した。
続く。
「………まぁ、とりあえず。大体の事情はわかった。
私なんかが力になれるのであれば、喜んで協力するよ。」
「ありがとうございます。」
「ありがとう、美月。」
美月は手にしたデジヴァイスの画面を見た。
「………といけない、もうこんな時間?戻らないとママはともかくパパが心配してる。
オファニモンはどうするの?ここに残るの?」
「ええ、ここは無干渉地帯ですから襲われる心配はありませんが……。
何分、何が起こるかわからない状態なので、ここに残ります。」
「そっか。わかった。」
「次に来る時までにルームの用意をしておきます。
そこを拠点として使ってください。」
「ん、ありがと。」
「じゃあ、来た時と同じようにデジヴァイスをパソコンの画面に向けて。」
「わかったわ。」
美月がデジヴァイスをパソコンの画面に向けると、美月とムンモンはそこに吸い込まれていった。
「……………セラフィモン、ケルビモン。これで、良いのですよね………?」
1人残されたオファニモンはそういうと美月のためにルームを用意すべく動くことにした。
続く。
「…………うーん、38.5℃。高熱だね。」
「………七夕会楽しみにしてたのに………。」
「満月ちゃん、あまり無理しないようにね。
そんな体で学校行ったら、倒れるだけじゃ済まされないよ。」
体温計を救急箱に入れた芳樹は満月にそう言った。
「お昼ご飯、何が食べたい?」
「………んとねー………うどんが食べたい。冷たいの。」
「うん、わかった。作ってくるから、待ってて。
………物吉、満月ちゃんを見てて。」
「はい、わかりました。」
「……………。」
台所に向かう芳樹を見送った満月はもぞもぞと布団の中で動いた。
「暑いですか?」
「……うん、暑い。」
「今日は最高気温35度ですからね………。高熱出している時に学校へ行ったら、
熱中症も出ちゃいますよ。」
「……ね、チューしよ?」
「………ボケっとしちゃっていますね。今、タオル変えますから。」
物吉は氷水で冷やしたタオルと熱を帯びたタオルを交換した。
「………物吉、満月が熱を出したって本当か!?」
「大丈夫!?」
「……ちょっと心配!」
「満月、死んだら嫌だよ!?」
「………落ち着いてくだされ、皆様方。
満月様は熱が出ているんですから、お静かに。」
一期一振の言葉に綾人達はう、となった。
「満月様、これを。」
そういうと一期は後ろに視線を向けた。
そこには笹の木があった。
「家でも七夕が楽しめるよう、信濃達が用意してくれました。
お薬を飲んでお休みになる前にでも、短冊に願い事を書いてくだされ。」
「………ありがとう、一期。信濃達にもお礼を言っておいて。」
「はい。かしこまりました。」
「………って言っているけど、実際はいち姉ぇが用意したんだよね。」
「………乱、それは言っちゃいけないぜ………。」
「なんやかんやでいち姉ぇも満月お嬢様に甘いよなぁ………。」
「………どうする?アイス買ってきたんだけど。」
「皆の分、あるんでしょ?渡しに行こうよ。」
「それもそうだね。」
そんな会話が部屋の前でされていたことなどつゆ知らず、満月は芳樹達に甘やかされて
うどんを食べた。
終わり。
美花達が寝静まった後、美穂と満月は芳樹と綾人の宿泊部屋にやってきた。
「子供達はいいのか?」
「いいのよ、小狐丸と鳴狐、それに物吉が見てくれているから。
それよりも夜のデートしましょ。」
ぎゅっ、と手を握る美穂に綾人は照れ臭そうな顔をした。
「この時間帯だと夜の館内が見られるそうですよ、芳樹さん。」
「それは楽しまなくちゃ損だな、綾人。」
「……まあ、それなら良いか。」
綾人達は夜のアクア・ファンタジアを散策することにした。
「………イルミネーションが綺麗ですね、芳樹さん。」
「まあ、満月ちゃんの方が綺麗だけどね。」
「芳樹さん!!」
「ちなみに私とイルミネーション、どっちが綺麗?」
「馬鹿な事を聞くんじゃありません。お前に決まっているだろ。
こういうところでしょうもない喧嘩はしたくない。」
「あら、風流なところあるのね、貴方。」
「………誰が言い出したと思っているんだ。」
夜の水族館には、綾人達の他にもカップルや親子連れが多く来ていた。
「…………素敵なところをありがとうございます、芳樹さん。」
「満月ちゃんが気に入ってもらえて何よりだよ。」
「……………新婚旅行以来ね、こうして2人で歩くのは。」
「そうだな。お前には苦労させてばかりですまないな。」
「あら、大切にして貰っているもの。辛いと思ったことはないわよ。
大切にするものを大事にすると決めているもの、貴方は。」
トン、と肩を寄せる美穂を見て満月はクスクスと笑った。
「私も綾人お兄様と美穂お義姉様みたいな関係になれたらいいなぁ………。」
「なれるさ、そう言う風にしていこうよ。」
「………はい。」
続く。