続き!
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雨の日は感覚が鈍る。いつもは鮮明に見える色とりどりの感情が、霧で霞んだようになる。
苛立たしくもあり、普通が味わえるかのようでもある。
大人達が言うには、ヤヌフ一族はアヴァロンという暗黒の島から来たそうだ。
真実かどうかは知らない。言っていた一族の大人が『嘘をついていたわけじゃない』。でもそれが事実とは限らない。
アヴァロンは遠い遠い呪われた島。暗雲が立ち込め、住民の顔は青白い。僕らの一族によく似合っている。けど、本当かどうかはわからない。
それがなぜ大陸に渡ってきたのかは、僕が今、逃げているのと同じ理由なのだと思う。
「イリヤはビーストマスターとして才能があるね。一族の誰よりも、かもしれない」
ババ様がそう言って喜んでくれた。大人達も笑顔だった。
なのに、
「レンジがキョウの側に行くと、レンジの回りの空気がピンク色になるよ」
一族の歳上の少年少女の話をすると、途端に空気が変わった。
一族の皆には見えていると思っていた感情の色は、僕にしか見えていなかったらしい。
異端の一族。その中でも僕は異端だった。
「こんな力を持つ者がいると周りに分かったら、我々を待つのは破滅だ」
「大袈裟な」
「心が読まれるんだぞ?きっと今より厳しい差別に晒される」
「ババ様、決断を」
燃え盛る篝火の下でされた、大人達の会合。その日の夜、父と母は僕を連れて逃げ出した。
「ねえ今、私が何考えてるかも分かるの?」
セリスが満面の笑みで聞いてきたので僕は答える。
「君には僕の力を使うまでもない」
使わなくても分かるから、と言う前に、彼女の遠慮ない握り拳の一撃が、僕の鼻を折った。
痛みから泣いている雨の夜、ガラスの割れる音がした。
とうとう来た、と廊下から聞こえる騒がしい声に身をすくめる。
真っ赤で鋭利な殺意が僕を切り刻む。
父と母の悲鳴、ミュラー氏の怒号が聞こえる。唸り声のようなものは、昔は遊んでくれたレンジの声だった。
一際大きな声に、震える手でドアを開ける。すぐに血溜まりと右腕を押さえるミュラー氏の姿が目に入る。
「良い子だから部屋に入っていなさい」
ミュラー氏は額に脂汗を浮かべながらも、にっこりと僕に微笑む。
気が狂いそうだった。
後日、動かなくなった右腕を元に戻す為、ミュラー氏はウェリスペルトの一番大きな教会の、一番偉い神官様に沢山のお金を払ったそうだ。
無事に動くようになった腕で本を読む彼を見て、妙なことだけど初めて自分の生にしがみつきたくなった。
本当に不自然なことだけど、そうだったんだ。
生きたい。そのためには強くならなくては。
姫君を守るのは僕には似合わない。でも、自分の身を守れるだけの力を身に付けなければ。
「イリヤ、あんた学園に行きたいんだってね」
セリスの意地悪な声が聞こえる。
「私も行こうかなー。ヒーラーとかモテそうじゃない?冒険グループとかでヒロインポジションだし」
そう言った後、彼女はこう付け加えた。
「でもアンタとは組んであげなーい」
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ひとまず終わり。短編に加えるにはもうちょっとボリューム欲しいか?
こうやってみるとアントンパーティーは本当に動かしやすかったな。登場から練りも無しに思いつきで書いてたから、逆に良かったのかも。
イリヤの短編はずっと書きたくて、色々考えててけどまとまらなくて。
やっぱりアレコレと考えるより、書き始めて正解だったわ。
さ、次は本編を進めるぞw