街道襲撃事件から12年の時が経過した現在。
メトロポリスにあるマンションでマドカ・ヒカルは朝食を作っていた。
「父さん、朝食ができたよ。」
「………………ああ、今行く。」
ぼりぼりと頭を掻きながら、イルマ・ヒビキは欠伸をした。
「……………しっかし、ヒカルももう16歳か………今日から高校生か。早いな。」
「それだけ父さんも歳を取ったってことでしょ。」
「だが、まだまだ現役のつもりだ。」
「そうだね、GUTSの隊長だもん。しっかりしてもらわなくちゃ。」
「………ヒカル。わかっていると思うが、人前で光を使うなよ。」
「………うん、わかっているよ。」
棚の上に飾られている写真立てを手にとり、ヒカルはそれを見た。
まだ幼い自分と産みの親の写真。
12年前の怪獣による火災により、ヒカルは両親を失った。
ヒカルの両親と知り合いであったヒビキが引き取りを申し出て、養子縁組を成立させた。
色々と事情がある故のことではあるが、ヒビキとヒカルの仲は良好であった。
「父さんには感謝してます。ここまで育ててくれたことには。」
「何、君の曽祖父と曾祖母が旧GUTSのメンバーだったからな。
事情を知る者の務めだよ。」
「………………うん。」
ヒカルの曽祖父であるマドカ・ダイゴがウルトラマンティガであったことは、
旧GUTSのメンバーしか知らない。
そして、そのGUTSのメンバーの子孫もそのことを知っていた。
これが世間に知られれば、世界はどんな反応をするか。
TPCには外部協力者ということで、ヒカルの名前を登録しているがそれだけだ。
「………まぁ、何にせよ、この12年間何事もなかったんだ。
今後も何事もないといいんだが……………。」
「やだなぁ、父さん。絶対何かあるって。16歳にもなったんだし。」
「…………それが心配なんだがなぁ…………。」
「大丈夫。いざという時のために、色々習っているんだから。
あんまり心配し過ぎると、胃に穴が空いちゃうよ。」
「…………そうだな。」
「…………あ、行けない。もう入学式の時間だ。父さん、急ごう!」
「あ、ああ。」
続く。
………それは突然の出来事だった。
突如として、怪獣が街を襲撃した。避難勧告が出される中、
怪獣の炎が渋滞と化した街道を襲った。
灼熱の炎に燃やされる中、強い光が突如として炎を祓った。
その強い光を放っていたのは、まだ4歳の子供であった。
1組の夫婦によって即死を免れた子供は状況を理解できず、泣き喚いていた。
その光は止まることを知らず、より一層強い輝きを放った。
そして、それは人の形となり、街道に現れた怪獣を一瞬にして倒してしまった。
「………隊長、光が…………!」
「………ああ、わかっている。まだ命のある人間がいるかもしれない、すぐに救助活動をするぞ!」
「りょ、了解!」
ガッツウィング1号に乗っていたイルマ隊長は、隊員に指示を出した。
「………………くそ、何で連休最終日にこんな大惨事が起きるんだ…………!?」
かくして連休最終日に出現した怪獣の襲撃によって発生した火災により、
多くの命が犠牲となった。
だがその中でたった1人だけ、生き残った者がいた。
真相については触れられなかったものの、
世間的には夫婦の愛によって奇跡的に救われた子として注目の的となった。
「………………というわけで、芳樹さん。フォンダンショコラです。」
「ありがとう、満月ちゃん。」
本日、2月14日はバレンタインデーである。
芳樹は守り刀から義理チョコを、満月から本命チョコを貰った。
「いやぁ、嬉しいねぇ。
満月ちゃんから毎年チョコを貰うなんて幸せ者だよ、俺は。」
「あはは、小さい頃は失敗作も出したりしていましたよね。」
「でも嬉しかったよ?」
「そうですか?」
「うん。」
「……………あの、若旦那様。お嬢様。ファンからの贈り物が来ているので、捌いてくれますか?」
「………今年もきたか…………。」
「でも食べ物よりはマシじゃないですか?生活用品とか結構贈ってきますよね、
ファンの皆さん。」
「そうだね…………。
チョコじゃない分、まだマシかな。
智久はチョコを贈られてくるって言っていたけど。」
「でもほとんど鶴丸の胃袋の中に消えていますよね。
あれで1sも太らないからさすがですね。」
「………まあ、守り刀は普通の人間じゃないからね…………。」
終わり。
「あ、満月ちゃーん!」
アクセサリーショップを後にした芳樹と満月、そして物吉は春花と再会した。
「春花ちゃん、売り子はもういいの?」
「ええ、おかげ様で完売しちゃって。従姉妹は他の同人誌を買いに。
別行動です。」
「そっか。」
「春花ちゃんは買いに行かなくていいの?」
「私そこまで腐っていないし……………。
それに18禁のものは買えないしで。」
「まあ、確かにそうだよねぇ。私も後1年と十数カ月の辛抱だし。」
「私だって同じようなものだよぉ!」
和気藹々と話をする満月と春花に芳樹はにこやかに笑った。
「女子っていいねぇ……………。華やかで。」
「そうですねえ。」
ちゃっかり芳樹達に同伴することになった春花と共に、4人は歩道を歩いた。
露店が幾つも並び、満月は目移りしていた。
「満月ちゃん、楽しそうだね。」
「そうですね。小さい頃、病み上がりで花火大会に行った時はおんぶされっぱなしだったんですよ。」
「そうなの?」
「はい。綾人様達が絶対におぶるんだとか言って若旦那様と喧嘩して花火どころじゃなかったです。」
「あったあった、そんなこともあったねぇ…………。
露店の皆から仲が良いんだねぇ、って言われたんだけど。」
「へぇ……………。」
続く。
喫茶店でパンケーキを堪能した芳樹と満月はアクセサリーショップに向かった。
「…………うぅむ、なるほどなぁ…………。」
満月とアクセサリーを交互に見ながら、芳樹は真剣に選んでいた。
「…………何か私よりも真剣に選んでいるね。」
「若旦那様、自分が選んだものでお嬢様を着飾りたいんですよ。」
「……………うん、独占欲全開だね。
まぁ、そういうところが好きなんだけど。」
「あはは、お嬢様も独占欲全開なところありますからね。」
「物吉ってば辛辣。」
「どうとでも言ってください。」
「…………満月ちゃん、ちょっと。」
「あ、はい。」
ひょい、と簪をあてられて満月はドキドキした。
「……………うーん、イマイチパッとしないな。
満月ちゃんが美人過ぎるのが悪いかも。」
「…………芳樹さんったら、もう。」
顔を真っ赤にする満月に店員はクスクスと笑った。
「贈り物ですか?」
「ええ、まぁ。オススメはありますか?」
「そうですねぇ。姫宮様は春生まれですから、こちらの商品が似合うんじゃないでしょうか?」
ずらりと並ぶ、春の花の簪に芳樹はなるほど、と呟いた。
「さすがは店員さんですね。」
「お褒めくださりありがとうございます。」
あれこれと悩む芳樹に満月ははぁ、と頬に手をあてた。
「………ホント、本人よりも真剣に悩むんだから………。
私、芳樹さんが選んでくれたものなら何でもいいのに。」
「愛されていますねぇ、姫宮様。」
「随分とお若いんですね。」
「そうですか?私、こう見えてもこの間還暦を迎えたばかりなんです。」
「嘘、全然見えない!?」
「私も旦那が愛妻家でしてね。
誕生日や結婚記念日以外の日でも花束をくれたり、プレゼントを貰ったりするんですよ。」
「へぇ………………。夫婦円満の秘訣はそれですか?」
「私も旦那にプレゼントを贈ったりするのですが、相手の方が1枚上手でして。
いつも驚かされるんですよ。」
「そうなんですか。」
ニコニコと笑い合う満月達をよそに芳樹は商品を手にとっては、うぅんと唸っていた。
続く。