話題:まさか!
あらゆる方面に対しコンプライアンスに基づく規制が強まる中、ついにその波は角界(相撲界)へも押し寄せる事となった。
以前にも八百長や可愛がり(しごき)の問題は何度か取り沙汰されたが、今回はそれとは全く関係のない[ある力士のしこ名]が対象となった。その力士とは元大関である【高安】関。
政府と民間の有識者からなる[なんでもかんでもコンプライアンス委員会]の定例会議で飛び出した何気ない一言がその発端である。
『高安ってさ、結局、高いのか安いのかさっぱり判らないよね。どっちなの?』
それを聴いた他の有識者全員が同時に飲みかけのセンブリ茶を吐き出した。それほどの衝撃だったのである。「言われてみればその通りだ」「どうして今まで気づかなかったんだろう」「これは表示に関するコンプライアンス違反ではないのか」
かくして【高安】というしこ名が不適切かどうかの審議が始まった。
何ともアホアホな話だと思われるかも知れない。が、考えてみて欲しい。もともと”有識者“とはアホアホな人たちの中で地位や名誉のある者を指す言葉なので何も不思議はないのである。審議では様々な意見が飛び出した。
「明らかに曖昧であり、商品の不当表示にあたる」という意見が飛び出せば、すかさず「力士のしこ名は商品ではないので問題はない」との反対意見が出る。「高いか安いかは人それぞれなので曖昧でも構わない」「それは受け取る側の話であって、売り手がそれをやるのは如何なものか?」「しかし、しこ名は売り物ではない」「いや、しこ名は一つのブランドであり登録商標に近い価値を持っている。その名を記した食品等が販売される事があるのがその証拠だ」
侃々諤々(けんけんがくがく)の論争がなされた結果、センブリ茶が尽きた事もあり、結論が出される運びとなった。
[何でもコンプライアンス委員会]の結論。
──“高い”と“安い”という両極端の意味を持つ言葉が並ぶのは明らかに紛らわしい。これは事実である。よって当委員会としては極めて強い態度で改名を要求する。代わりのしこ名は【適正価格】もしくはそれを略した【適価】を推奨したい。これは、高いと感じる人も安いと感じる人も納得出来る名称であろう──
この報告書はすぐに大相撲協会へと伝書鳩で伝えられた。[何でもコンプライアンス委員会]の決定に強制力は無いので、どうするのかは大相撲協会及び高安関、及び、部屋の師匠の判断となる。次の場所で【高安】のしこ名が【適正価格
】に変わっているか、是非とも注目したいところである。
〜おしまひ〜。
*(注)【高安】は【円高ドル安】もしくは【ドル高円安】の略であるという説をよく耳にするがこれは誤りである。
*この話はフィクションであり、実在の団体や個人とは関係ありませんのでご注意下さい。