9/1 12:46拍手コメントよりリクエスト
『揺れる、壊れる』の続きで♀ユリ、暗い感じで裏表現ありですので閲覧にはご注意下さい。
何処から狂ったのかなんて、解りきっている。
だからもう、あの場所にはいられなかった。
自分が男だったら良かった、と何度思ったかわからない。ただ、あいつに負けたくなかったんだ。
肩を並べて歩く対等な友人でいたかった。
だけど男になんてなれる筈もなく、フレンと一緒に騎士団に入団してからは近付くどころかますます離される一方で、焦る気持ちばかり大きくなっていく。
どうしても敵わないと思い知らされたあの時、その気持ちは頂点に達していたんだと思う。
フレンはずっと、オレのことを『女』としか見ていなかった。
勿論それは単純な性別上の事実だけを言ってるわけじゃなく、性的な意味でもそうだった、ってことだ。
…要するに、セックスの相手としてオレを意識していたんだな。
いつからそんな目でオレを見てたのかなんて知りたくもなかったのに、いつだったかフレンが勝手にそんな話をした事がある。
聞きたくない、と言ったらあいつは酷く悲しそうな顔をした。
それでもあいつはオレを抱く。始めのうちこそ抵抗したが、今ではもうそんなつもりもない。
受け入れた、と言えば聞こえはいいが、諦めただけだ。
だって、どうやったってあいつには敵わないんだ。余計な抵抗さえしなければ、フレンはそれは紳士的にオレの事を抱く。あいつはあいつで、どうやら思うところがあるようだった。
…抵抗したからといって、別に暴力を振るわれるわけじゃない。
だがオレはそこらの女より腕力がある。下手に抵抗すると、フレンはそれ以上の力でオレをベッドに縫い留めて力ずくで従わせようとして、そしてオレはフレンの腕力に太刀打ち出来ない事を思い知らされる。
これ以上、情けない思いをしたくないから大人しくしているだけだという事を、フレンは気付いてるんだろうか。
…どうでもいい。
フレンに初めて抱かれた時の事は正直殆ど覚えていない。あまりに唐突で、性急で、何の悦びも感慨もなかった。
覚えているのはただ一つ、それが恐怖だったという事。
力で捩伏せられ、抵抗は出来ず、懇願は聞き入れられないままただ身体を暴かれた恐怖しか覚えていない。
無理矢理だった。…強姦されたんだ。
今となっては、相手がフレンだったという事がマシだったと思うしかないのか。もし他の男にあんな事をされたら、と思うと吐き気がする。そして恐らく、相手もオレもただでは済まなかっただろう。
フレンだったからまだ耐えた。そうでなければ、殺していた。
フレンは時折、騎士団を辞めたオレの元にやって来る。他愛もない日常を取り留めもなく話し、たまには食事を共にするその時間は決して悪いものじゃない。
その後に待っているものが面倒なだけだ。
好きだ、と囁いて触れる唇にも、熱い吐息にも、もう慣れた。
嫌悪感は麻痺してしまってよくわからない。快楽は……感じるようになっていた。
フレンの掌が胸元に滑り込んでくると、背筋にぞくりとした感覚が這い上がる。
身体を震わせるオレを見てあいつは嬉しそうに笑うんだ。
それがもう、恐怖から来るものではないと知ったから。
ゆっくりと服を脱がしながらオレをベッドに組み敷くと、フレンはあちこちに口づけを落とす。とても優しく、慈しむように繰り返しながら徐々に荒くなる息遣いを耳元に受けてオレが思うのは、こいつは一体何にこれほど興奮しているのか、という事なんだからどうしようもない。
獣みたいだ、と思う。
それは今も変わらない。ただフレンの呼吸が激しくなるほどオレの心は冷めていく。
オレには自分自身の魅力なんてわからないから。
フレンはいい男だと思うぜ?実際、騎士団にいた頃は他の女共からあれこれ聞かれたものだった。幼馴染みだからな、オレは。
でも、そいつらの質問にオレはあまり答えてやれなかった。聞かれてもわからない事のほうが多かったんだ。
フレンはどんな女が好みなのか、好きな食べ物は?趣味は、休日は何をしてるのか、子供の頃はどうだったのか、とか………
女の好みなんか知らない。
そんな話をしたことがない。
休みの日のことまで把握してない。
覚えてない……
こんな答えしか返せないオレに、質問してきた奴らは決まって落胆し、時に疑いの眼差しを向けた。知ってて教えたくないだけなんじゃないか、ってはっきりと言われたことまである。
…どうでもいい。
『そういう目』で見た事がなかったんだから仕方ないだろ。
じゃあ、今は?
オレにとってフレンはどんな存在なんだろう。あの頃と何か変わったのか?
衣服を全て取り払われて、重なる身体が熱い。
フレンの指先に導かれて次第に感覚が昂ぶり、まるで自分のものとは思えない声を上げ、気を抜くと『もっと』欲しいと強請ってしまいそうな自分がいる。
フレンがオレの何に興奮するのかわからないくせに、自分自身もこうやって興奮してる。
気持ちなんて篭ってない。性感を高めるようにフレンがあちこちを弄るからだ。
…残念ながらオレは不感症ってわけじゃなかったみたいだな。何度も繰り返し抱かれるうちに、すっかり『女』としての悦びを教え込まれちまった。
女であることが嫌で仕方なかったってのに、我ながら皮肉なもんだと思う。身体は正直、ってことか。全く、笑えないよ。
絶え間なく口づけを繰り返しながら巧みに乳房を愛撫され、固くなった先端を優しく口に含んで転がされ…ほら、もう全身に甘い痺れが走ってされるがままだ。
…抵抗しないんじゃない。
抵抗する余裕もない、と言ったほうが正しいな…。
強く抱きついて歯を食いしばっても堪えきれずに漏れた吐息が自分の首筋を擽るのが、何故かフレンは好きなようだった。
浮いた背中に両腕が回され、するすると優しくなぞられて力が抜ける。
ああ、と甘く鼻から抜けた声がまるで自分のものではないように聴こえるのもいつもの事だ。そして、フレンがオレのこの声が好きで、わざとそれを誘うようにしているのも。
好き。
フレンはオレの事が好きだと言う。
口煩くて、いつもオレの事を心配しているフレン。
その気持ちは嘘じゃないんだろう。面倒臭いと感じる事はあっても、不快には思わなくなっていた。
オレを激しく突き上げながら何度も好きだと繰り返し、大丈夫か、と尋ねるくせに己の欲望を何度も吐き出し、熱の篭った瞳で見つめられて、そうか、フレンはオレの事が好きなんだな、と漸く理解した。
フレンの好みの女はオレ。
オレの作った料理は何でも美味いと言って食ってくれるし、趣味は鍛練。休日はオレとその鍛練をした後、オレの部屋で過ごす。
かつてオレにフレンのことを尋ねた女共に、今ならこう答えるだろう。
…どんな顔をするんだろうな、あいつらは。
羨望か、嫉妬か。
でも、あいつらは知らないんだ。
フレンの中にある仄昏い『何か』を。
初めてが無理矢理だった、って言っただろ?
好きな相手にそんな事が出来るのか、と思うと同時に、好きだからこそ歯止めが利かない事もあるんだろう、というのは理解してる。きっと、フレンはずっと我慢してたんだ。オレはあいつを異性として意識してなかったから、オレの振る舞いはかなり『目の毒』だったらしい。最近になって言われた事だ。…そんなの、フレンに対してだけじゃなかったと思うが。
だから余計に乱暴になったのかも知れない。
『好きでもない』上、親友だと思ってた相手に無理矢理裸に剥かれて身体中舐め回されて、初めてだったってのにいきなり突っ込まれて好き放題動かれて、挙げ句の果てに意識を吹っ飛ばす程の目に遭わされて、何度も言うがフレンじゃなかったら殺してる。
気が付いた時にはフレンに抱き締められていて、全身が痛くて怠かったけど不快感はなかったから、後始末はされたんだろう。
目の前で眠るフレンの頬には、涙の跡があった。
…おかしいだろ、人のことめちゃくちゃにしておいて自分が泣くなんて。目覚めた後も当然というか、何度も詫びるフレンにオレは何も言えなかった。
理解不能な罪悪感に襲われて、これじゃどっちが被害者なんだかわからない。
結局絆されたんだ、オレは。
許した訳じゃない。でも、もう少し付き合ってやってもいいか、と思った。
知らない事が多すぎる。
フレンの事を、オレは結局何も解っていない。フレンだけがオレの事を解ったような顔をしているのが腹が立つ。
…どうしようもないだろ、こんなところでまで、結局負けたくないだなんて。
それからもう一つ。
オレを抱く時に見せる、あの狂気を孕んだ昏い瞳だ。あんな顔をするフレンをオレは知らない。知らなかった。
激しく抵抗するオレを押さえつけた時に見せたあの顔を忘れる事なんてない。
それは今でもそうなんだ。
もう無理矢理じゃない。乱暴でもない。でも、フレンは今でも時折あの瞳でオレを見る。
あれは支配欲、というやつだ。
フレンに抱かれる事に抵抗しなくなったとはいえ、好き好んでしたくない格好だってある。
明かりを落とさずに隅々まで見られるのは嫌で堪らない。
四つん這いにされて後ろから犯されるのも好きじゃない。だって、なんだか動物みたいじゃないか?…まあ動物なんだけどな、人間も。
フレンのものを啣えさせられるのも嫌いだ。顎は疲れるし、先走りの何とも言えない味にはいつまで経っても慣れない。慣れないと言えば勿論、口の中に出されるのもそうだ。生暖かくて生臭くて、あんなもの飲めなんてどうかしてるよ。
嫌だと言っても結局はそれを受け入れるオレを見る時のフレンは、いつもあの瞳をしている。
男なら誰もが恋人にそういう感情を抱くのか?
恋人…恋人なんだろうか、オレ達は。
今の関係が正常なのか異常なのかすらオレにはわからない。
身体を許してその行為に没頭しても、オレはフレンのことが好きなのかどうかまだわからない。
…なあ、何かおかしくないか?
最低なのって、フレンとオレのどっちなんだろうな。
フレンには理想がある。元々、その理想のためにオレ達は騎士団の門を叩いたんだ。オレが騎士を辞めてもフレンは騎士団に残って頑張ってる。それは確かだ。
でも、その理想のためにはフレンに潜む支配欲や独占欲は危険なものだ。あいつは絶対に自分じゃそれに気付いてない。
気付いているのはオレだけだ。
…もしかしたら、フレンにそんな感情を植え付けたのはオレなのかも知れない。オレが頑なな態度をとり続けたせいで、あいつの中の何かを歪ませたのか。
もしそうなら、オレはあいつに何がしてやれるんだ?
最近、身体を重ねながらそんな事を思うようになった。フレンの態度は変わらない。甘い言葉を囁いて何度も好きだと繰り返し、優しく、時に激しく求められてそれに応えるオレを見つめる蒼い瞳に、時折灯る昏い炎。
フレンの言う『好き』の意味がわからない。
自分自身はフレンを『好き』なのかわからない。
こんなのおかしい、歪んでる。
オレが素直じゃないから?フレンが素直すぎるから?
ああ……もう、何がなんだかわからない
オレ、何がしたかったんだっけ……
このまま快楽だけを追っていたら二人とも駄目になる。…もう、駄目になってる?まだ…間に合うよな…?
フレンは本当にオレの事が好きなのか?愛していると言うのは真実なのか?
そして、どうしてオレはこんな事が気になるんだ?
なあ、誰か教えてくれよ
オレ達ってどう見える?
どんな関係?
肉体的な繋がりだけじゃない何かがあった筈なのに、今じゃそれを見失ってしまった。
いつかまた、それを見つけられるんだろうか。
見つけられなかったらどうなるか、考えたら怖くなった。
結局、オレもフレンから離れられないのか…?
ただの幼馴染みを越えた先に、オレ達が見るものは一体何なんだろうな………
ーーーーー
終わり