『ーーそれから、お姫様と王子様はいつまでもいつまでも幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし。』
おとぎ話はいつもこうです。
どんな困難があっても、さいごのさいごにはお姫様は王子様と結ばれて、幸せになってのハッピーエンド。
意地悪なおばあさんも、こわいこわい魔法使いも、すてきな隣国の女の子も、その一言にはかないません。
さいごのさいごには、かならず、お姫様が王子様との幸せを手にするのですから。
ーーでも、物語は残酷です。本当のお姫様になれるのは、王子様の隣にいられるのは、たった一人なのですから。
誰だって夢を見るのです。
それは王子様と結ばれるお姫様の夢。
誰だってお姫様になりえます。
ぼろぼろの服を着たいじめられっこだって、ままははに嫌われた白い肌の女の子だって、地上を夢見る人魚だって、花のつぼみに抱かれるような少女だって、みんなお姫様になることができるのです。
王子様に恋をした女の子は、魔法の力で、時には自分自身の力で、残酷な運命を切り開いて、さいごには幸せになるのでした。めでたくめでたく、いつまでも終わることのない幸せを、大好きな人の隣で手にすることができるのです。
それはとってもすてきなこと。
誰もが夢みるおとぎ話。
そう、それは、わたくしも同じです。
絵本を閉じて。わたくしは夢見るのです。わたくしにも、きっと王子様がいるのだと。
いつまでも終わらない幸せを過ごせる、たった一人の王子様。
そんな王子様と結ばれる幸せなお姫さまを、私は夢みていたのです。
そしてその王子様が貴方であることを、わたくしは夢みているのです。
広い世界で巡り会って、わたくしは貴方に惹かれています。貴方を夢みて恋い焦がれています。
これがおとぎ話であれば、困難の先にきっと、わたくしは貴方と共に幸せに暮らすことが出来るのでしょう。めでたしめでたしなハッピーエンドを迎えることが出来るのでしょう。
お姫さまは、最後には必ず幸せになれるのです。
ーーですが、それは本当でしょうか?
本当に、王子様を夢みたお姫さまは、いつか王子様と結ばれるのでしょうか。
きっと、王子様と結ばれたお姫様だけが王子様を夢見たわけではないのでしょう。
物語の主役になれなかったお姫様だって、きっと王子様を夢見て、焦がれたことでしょう。
王子様に選ばれるのは、いつだって物語のお姫様。
では、物語の主役になれなかったお姫様は、選ばれなかったお姫様は、いったいどうなってしまうのでしょう。
物語は残酷です。
たった一人のお姫様の幸せの裏に、どれだけのお姫様の涙があるのでしょう。
それをすこしも語らずに。めでたしめでたしで幕を閉じる。
永遠の幸せの影で、多くのお姫様が忘れ去られてしまうのです。
12時の鐘が鳴ったら、魔法は溶けてしまいます。それでも貴方は、たくさんの想いに見向きもせずに、あのこの元へいってしまうのでしょう。
もしもガラスの靴を落としたのがわたくしだったならば。貴方はそれを拾い上げて、わたくしをみつけてくださるのでしょうか。
きっとわたくしは、物語の主人公ではないのでしょう。
ガラスの靴を手に。貴方はいつか、お姫様を迎えに行くのでしょう。
そしてそれは、きっとわたくしではないのでしょう。
選ばれなかったお姫様。忘れ去られてしまうだけのお姫様。王子様との幸せを夢見て、けれどそれは叶わない。叶わないのでしょう。
わかっています。
だけど、それでも。
わたくしは信じるのです。
貴方は、わたくしの王子様なのだと。
お姫様が泡になって消えた後に、貴方のお姫様になれるのです。