+┼ 誰がために蝶は羽撃く ┼+
illegal ~35歳x19歳~
2022/4/18
22:19 Mon
「検査に異常はなしだ」
淡々と告げられた結果に、武藤カズキはひとまず胸を撫で下ろした。
カズキの胸には心臓の変わりに2つの核金が埋まっている。そのため身体に異常はないかを半年周期で定期的に確認するのは、月から戻ったあの日からの決め事となっていた。だが、高校卒業、大学、就職と進む時間の中では、都合がつかず来られない時もあり、今では不定期となってしまっていた。
今日も約1年半ぶりの検査である。
「ありがとう」
結果を印刷した紙を、真剣な眼差しで確認している麗人に礼を投げる。「あぁ」と歯切れの悪い返事に、カズキは少し首を傾げた。
紙から顔を上げたパピヨンの表情からは、何も察することができず小さな困惑は拭えないままでいた。
「持っていろ。戦団には先程送信してあるから提出する必要はない」
差し出された検査結果の紙を受けとる。書かれている項目や数値はかつて教わった気もするが、すっかり意味を忘れてしまっていた。受け取った紙を鞄にしまい、座っていたソファから立ち上がる。「赤字があったら危険」くらいしか覚えていないこと伝えたら怒るだろうなと苦笑がひとつこぼれた。
ソファの背もたれにかけていた上着を手を伸ばした時、からんと響いた乾いた音が僅かな静寂を破った。
振り返り音の方を見れば、蝶の形を模した仮面が机の上に置かれていた。
仮面に添えられていた橙色に彩られたパピヨンの指先が、誘うように自分へ伸ばされるのに、カズキは軽く頭を殴られたように感じる。自覚していなかった亀裂から溢れる想いに、ただ身体が押されていた。
誘われるままにパピヨンの手を取り、カズキはその身体を引き寄せる。
「……蝶野」
腕の中に捕らえたその人の素顔も名前も、世界で自分だけの特権だという事実は容易に頬を緩ませる。変わらないしなやかに細い腰に手を添えると、白い肌にさっと朱が走るように見えた。
首元に伸ばされたパピヨンの指先がゆっくりとネクタイを緩めるのを、カズキは止めることなく受け入れる。
「会いたかった」
搾り出すように小さく漏れたパピヨンの声は掠れていた。カズキはただ頷き返す。
気持ちは一緒だ、なんて言うには会えない期間が長すぎたことを謝れば、きっと謝るなと言われるだろう。
「今夜は帰るな」
熱を隠さず濡れて揺れる黒曜石の瞳が、伏せられる。吸い寄せられるようにカズキはその瞼に唇を寄せた。
「……言い訳が必要ならくれてやる」
「いらないよ」
そう答え、何か発しようと小さく開いた唇に唇を重ねた。舌先で唇をなぞれば、肩に添えられたパピヨンの指先がひくりと震えるのがワイシャツ越し伝わってくる。カズキは掴んでいたパピヨンの腰を強く引き寄せ、唇をさらに深く重ねた。動揺するパピヨンの吐息ごと奪い取り、差し入れた舌で躊躇う舌を絡めとる。絡まる唾液の水音が部屋の中に響くのに、ふっと口角が上がる。
重ねた唇が離れると、熱を帯び息が薄い皮膚を撫でる。微かに朱を帯びた唇に触れるだけの口づけを落とし、腕の中の身体を強く抱きしめた。
「言い訳なら済ませてある」
あぁ、とカズキの耳をくすぐった声は、感嘆か歓喜かどちらも含んだまま部屋の空気に溶けて消えていった。
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